固溶化辞典 用語についてご説明いたします。

固溶化処理とは

溶体化処理とも呼ばれます。
適温に加熱・保持し、材料の合金成分を固体の中に溶かし込み(固溶させる)、析出物を出さないように急冷する処理です。
オーステナイト系ステンレスに対して行われる事が多いのですが、目的は加工・溶接などによって生じた内部応力の除去、劣化した耐食性の向上など組織改善の為に行います。
また、析出硬化系ステンレスの析出硬化処理の前処理としても行われます。

加工硬化

塑性変形によって金属が硬化する事をいい、ひずみ硬化とも呼ばれます。
オーステナイト系ステンレスが加工硬化した場合、オーステナイト相がマルテンサイト相に変態(加工誘起マルテンサイト変態)し、本来非磁性の材料が磁性を持ち、また耐食性も劣化する事があります。
この様な組織変態を改善する為には、適正な温度で固溶化処理を行う必要があります。
この様な場合処理後の硬度を下げる(軟化させる)目的の為、「焼鈍」としてご依頼を受ける事がありますが、ステンレス鋼を加熱後除冷すると鋭敏化するのでご依頼の際はご注意下さい。
また、材料を引き抜いて意図的に表面硬度を上げて使用する鋼種もあり、この様な材料を固溶化処理すると当然軟化しますので、注意が必要です。

粒界腐食

金属の結晶粒界だけが選択的に腐食する現象の事をいいます。
オーステナイト系ステンレスでは、鋭敏化などによってCr炭化物が析出した状態にあるときおこる事があります。

鋭敏化

オーステナイト系ステンレスは、熱処理や溶接によって500℃~850℃の温度域に一定時間さらされると、クロムと炭素が結合しクロム炭化物が結晶粒界に沿って析出します。この状態を鋭敏化といい、不動態皮膜を形成するクロムが欠乏する為、粒界腐食の原因となり、ステンレス鋼の特色である耐食性が著しく低下します。
固溶化処理によって1000℃~1200℃程度に加熱・保持した後、500℃~900℃の温度域を急冷する事により鋭敏化を防ぐ事ができます。
固溶化処理ができない場合は鋭敏化しにくいローカーボン材を使用する場合もあります。
ステンレス鋼の粒界腐食に対する抵抗を調べる為、あえて鋭敏化させる処理を鋭敏化処理といいます。

不動態皮膜

ステンレス鋼がなぜ錆びないのか?それは、表面に薄い酸化皮膜を有するからです。
この酸化皮膜は非常に安定しており不動態化します。これを不動態皮膜といいます。
不動態皮膜は一般に鋼材中のクロム量が11~12%を超えると形成されます。
不動態皮膜は金属地側はクロム酸化物、環境側は水酸化物から成る2層構造になっていると考えられています。
その厚さは条件によって異なりますがわずか1~3nm程度です。
この極薄い酸化皮膜によってステンレスは腐食から守られていますが、言い方を変えるとすでにそれ以上酸化しない(錆びない)程、表面が酸化している状態であるともいえます。
この不動態皮膜は非常に安定している為、例え破壊されたとしても空気中、水中などであればすぐに再形成されます。
ただし、この再形成がうまくいかない環境では、ステンレスも腐食します。

オーステナイト系ステンレスの固溶化温度一覧

・SUS201 1010~1120急冷
・SUS202 1010~1120急冷
・SUS301 1010~1150急冷
・SUS302 1010~1150急冷
・SUSU303 1010~1150急冷
・SUS303Se 1010~1150急冷
・SUS303Cu 1010~1150急冷
・SUS304 1010~1150急冷
・SUS304L 1010~1150急冷
・SUS304N1 1010~1150急冷
・SUS304N2 1010~1150急冷
・SUS304LN 1010~1150急冷
・SUS304J3 1010~1150急冷
・SUS305 1010~1150急冷
・SUS309S 1030~1150急冷
・SUS310S 1030~1180急冷
・SUS316 1010~1150急冷
・SUS316N 1010~1150急冷
・SUS316LN 1010~1150急冷
・SUS316Ti 920~1150急冷
・SUS316J1 1010~1150急冷
・SUS316J1L 1010~1150急冷
・SUS316F 1010~1150急冷
・SUS317 1010~1150急冷
・SUS317L 1010~1150急冷
・SUS317LN 1010~1150急冷
・SUS317J1 1030~1180急冷
・SUS836L 1030~1180急冷
・SUS890 1030~1180急冷
・SUS321 920~1150急冷
・SUS347 980~1150急冷
・SUSXM7 1010~1150急冷
・SUSXM15J1 1010~1150急冷

その他のステンレス鋼の熱処理

<マルテンサイト系ステンレスの焼入れ焼戻し>
マルテンサイト系ステンレスは、硬さと強さを目的としたステンレスで大気中では錆びにくいのですが、その耐食性は他系統のステンレス鋼よりも一般的に劣ります。
SUS440系が最も硬く、SUS440Cは、JIS鋼種の中では最高の硬さであるHRC58程度を焼入れ、焼戻し処理で得ることができます。

<フェライト系ステンレスの焼鈍>
フェライト系ステンレスは、オーステナイト系ステンレスの固溶化処理と同じ様に加工後の組織改善の為に焼鈍を行う事があります。
これを固溶化処理とは呼びませんが、通常の焼鈍処理と異なり鋭敏化を避ける為、冷却は急冷で行います。
特にフェライト系ステンレスでは475脆性を避ける為、その近辺の温度域を素早く通過させる必要があります。

<析出硬化系ステンレスの析出硬化(時効硬化)処理>
SUS630、SUS631などに代表される析出硬化系ステンレスは、炭素の代わりに金属間化合物の微細な析出物粒子を分散させる事で強度を高める事ができます。
焼入れが可能なマルテンサイト系ステンレスと比べると一般的に硬度は劣るが、耐食性に優れます。
マルテンサイト系ステンレス同様強度を利用した用途に適しており、また析出硬化前に成形、溶接を行う事ができます。
SUS630は析出硬化(時効硬化)処理時にCu(銅)富化相が析出して硬化し、SUS631は析出硬化(時効硬化)処理によってNi(ニッケル)、Al(アルミニウム)の金属間化合物が生成する事によって硬化します。